いままでいろいろと書いてきましたが、いまから大阪に移動するので、その時間を使ってちょっとここらでソーシャルメディアマーケティングの本質について考え直してみようかと思います。
むかし、CGMマーケティングの本質というエントリーを書きましたが、これは2008年10月のこと。まだ1年経ってないんですが、だいぶ考え方というかソーシャルマーケティングの捉え方が変わった気がします。
CGMはほとんどソーシャルメディアとほぼ同義ですから、CGMマーケティング≒ソーシャルメディアマーケティングです。ちょっと長くなるかもしれませんが、今回は1年で捉え方が大きく変わったソーシャルメディアマーケティングの本質について整理してみます(できる限り)。
まず、ソーシャルメディアの位置づけを考える上で、他の2つも含めた「メディアの3類型」があります(↓)。
3つとは(最近ちょぼちょぼ言われ始めてますが)、他社メディア、自社メディア、ソーシャルメディアの3つです。他社メディアは、いわずもがなお金を払って枠を購入するメディアです。広告の場合はお金を払いますが、PRの場合は直接的な広告枠のバイイングコストではなく、通常、PRエージェンシーへのフィーが発生します。他社メディアは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのマスメディアから交通広告、屋外看板、Webメディアなどが含まれます。一定期間に一定レベルのAwareness獲得やターゲットへリーチするためには、他社メディアを使わなければ生活者にリーチできません。まあこれは当たり前。
次は、自社メディアです。これはネットが普及する前から顧客リスト、DMリスト、商品パッケージ、自販機や店頭というかたちで存在していました。ネットが普及すると、メルマガ会員やコーポレートサイトも自社メディアになったわけですが、大規模な自社メディアを有するマクドナルドやコカコーラなどは、必ずしも他社メディアを買わなくても、自社メディアである程度のSPは実施することができてしまう。これもすごい変化です。
最後に、ソーシャルメディア(=CGM)やUGCの台頭です。ソーシャルメディアは2000年くらいから普及し始め、2004年頃にBlog、SNSともにティッピングポイントを超えた気がします。この頃からソーシャルメディア内でのOrganic WOM(自然発生的なクチコミ)が生活者の購買行動に大きな影響を与えるようになり、企業がこぞってAmplified WOM(仕掛けるクチコミ:いわゆるバズやバイラルマーケティング)を実施するようになりました。2006年頃にはPPP型(Pay Per Post:報酬を支払ってBlogのカキコミを促進させる手法)のブログマーケティングサービスが一般化し、月間で100本弱(全事業者のTOTAL)くらいの案件がまわっていたんじゃないかと思います。
ある程度短期間で意図的にクチコミを発生させることは容易ではありません。バズなりバイラルは「トリガーさえ引かれれば発火するポテンシャルを持つコンテンツ」が必須なわけですが、この企画やコンテンツを考えたり制作したりするにはそれなりの労力やコストがかかります。しかし、広告主(特に上層部)の、
●クチコミは金がかからない
●アルファーブロガーに取り上げられれば、好意的なクチコミが爆発的に広がる
●バイラルムービーはテレビCMと比べてゼロが1個か2個少ないコストで制作でき、YouTubeにアップするだけでみんなが見てくれる
●ブログパーツを配布するとこぞってブロガーが貼ってくれ、サイトへの流入が増加する
●ブロガー招聘イベントを開催すると影響力のあるブロガーから好意的なクチコミ(2次伝播/3次伝播)が発生する
●バズ(バイラル)マーケティングで新商品や新サービスの認知度が一気に上がる
などの誤った認識から、クオリティの高いコンテンツが制作されることなく、数多くのバズ(バイラル)的施策が実施され、十分な成果を上げることができず「バズ(バイラル)マーケティングって、巷で言われるほど効果ないよね」、なんて寒い空気が流れるに至った気がします。「バイラルマーケティング?古いねー。まだそんなこと言ってんの?」みたいな。これは、バズ(バイラル)マーケティングやブログマーケティングから得られる効果を煽って売りまくったネットマーケティング事業者の責任も大きいと思います(自戒を込め)。
で、流れが変わってきたのは2008年後半くらいから。「ソーシャルメディアマーケティング(ソーシャルメディアを活用したマーケティング活動)って、バズやバイラルやブログマーケティングだけじゃないんじゃないの?」という認識が出てきました。
ソーシャルメディアマーケティングに関連するマーケティング概念を整理してみました(↓)。
ソーシャルメディアが普及する前、一部、マスマーケティング限界説が言われ始めた頃、アメリカでOne to One Marketingの概念が生まれました。マス対応じゃもうダメですよ、顧客の嗜好は細分化されてきているので、顧客に一対一で対応しましょうね、と。その後、セスゴーディンがPermission Marketingを提唱し、これからのマーケティングには顧客の「承認」や「許諾」が必要だ、と。
これは、何もメアド登録の際に「今後有益な情報を定期的にメールでお届けしていいですか?」って承認ボタンをチェックしてもらうだけじゃなく、人間関係や好意度は常に変化するものですから、中長期的に顧客が「あなた(ブランド)と関係を持ちたい」と承認し続けてもらえる関係性をつくりましょう、という考え方でした。このOne to One MarketingとPermission Marketingが一緒になってRelationship Marketingが生まれ、これからはマスマーケティングから関係性マーケティングだ、マーケットシェアから顧客シェアだ、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が重要だ、と叫ばれました。で、これがシステム化、ビジネスプロセス化されて普及したのがCRM(Customer Relationship Management)です。これらは全てCustomer、つまり既存顧客が相手の活動です。
一方、ソーシャルメディアマーケティングはこれらの活動を全て飲み込む、より広義の概念だと思います。自社の顧客も、あまり興味を持ってもらえていない生活者も、若干興味を持ってもらえている(もしくはニーズがある)潜在顧客も、競合他社の顧客も、もっと言えば株主や、入社を考えている新卒や転職志望者も、従業員の家族や友人も、全てのステークホルダーを飲み込む大きい概念(「ソーシャル=社会そのもの」だから当たり前ですが)。
そう考えると、ソーシャルメディアマーケティングは、短期的なバズやバイラルやブログマーケティングだけではなくて、本質は中長期的な関係性づくりにこそあるんじゃないの?という考えになります。そして、この考えは正しいんだと思います。
以下にソーシャルメディアマーケティング(手法)のポジショニングマップをつくってみました(↓)。
縦軸(上)が瞬間的な話題化:短期的なROAC(Return On Acquisition Cost:費用対効果)志向です。B2C2Cとも言われます。KPIは、いわゆる一般的なネットマーケティングと同じく、imp/CTR/CPC/CV(R)/PV/UUなどが用いられます。対して縦軸(下)は中長期的な関係性:ROMI(Return On Marketing Investment:投資対効果)志向です。こちらはB2Cと言えます。KPIはEngagementですが、これがまた難しい。ROACほどわかりやすい一般的な指標があるわけではないことと、企業によって指標(インデックス)の重み付けが全く異なるため、「これがこうなったらこう」的な指標なりルールが業界でもまとめられていないのが実情です。
一方、横軸(左)は興味関心のつながり。C2Cコミュニケーション(Organic WOM:自然発生的なクチコミ)のゾーン。クチコミは発生していますが、Amplified WOM(仕掛けるクチコミ)はなかなか難しいエリアです。仕掛けた結果が現れる場所と言えるかもしれません。横軸(右)は、最近、最も注目されている、人と人のつながりを重視したコミュニケーション。企業が発信する情報や生活者との関係性づくりにおいて、より個人(従業員)の顔やキャラクターによるものが大きいため、E2C(Employee to Consumer)と名づけました。従業員は雇われの身ですから、BE2C、つまりBusiness Employee to Consumerと言っても良いかもしれません。Twitterなどが最たる例です。
2004年頃から2008年頃までは、この縦軸(上)方向=ソーシャルメディアマーケティング(CGMマーケティング)という理解が一般的でした。ソーシャルメディアは魔法の箱。ブロガー(と呼ばれるロボット)やCGMと呼ばれる好意的なクチコミの増幅・拡散装置によってお金や労力をかけずクチコミが爆発し、認知は上がるし、購入意向度も上がるし、商品は売れるし、万々歳だー的空気が流れていました(いまでも結構というかかなり根強いですが)。
しかし、多くの取り組みを通して、ようやく一部企業では、ソーシャルメディアの本質は、全ステークホルダーとの中長期的な関係性づくりのプラットフォームなんだ、実行するためにはそれ相応の覚悟と本気度が問われるが、実行しなければ今後ソーシャルメディアが空気のような存在になる数年後、マーケティング活動上、相当大きなビハインドを負うことになる、ということに気づき始めています。
ソーシャルメディアマーケティングの本質は、Conversation Marketing(会話マーケティング)です。生活者と同じ目線で会話をすることを通して、良好な関係性を築くことなんです。B2C2CだろうがB2CだろうがE2Cだろうが、ルールや心得や作法やガイドラインも必要ですけど、相手は生身の、血が通い感情を持った人間です。結局、実社会の中で私たちが行っている人間関係づくりと同じなんじゃないかと思うんです。
人間関係ですから第一印象も大切ですし、相手や場所によって言葉遣いや振る舞いも変わるでしょうし、(20年来の幼馴染でもなければ)一回仲良くなったらずっと仲良しでいられるわけでもないし、毎日のようにメールや電話をしたらうざがられるでしょうし、何よりも、相手にずっと「仲良しでいたい」と思ってもらえるよう、こちら側がいつも魅力ある対象でなければならないとか、至極当たり前のことなんじゃないかと(まあこれを企業活動として実行することが組織や人事制度との絡みもあって簡単じゃないわけですが)。
なので、ソーシャルマーケティングリサーチは、相手がいま何に興味を持っていたり、不満を持っているのかを知る意味で、非常に重要です。みなさんも、実際の人間関係では仲良くなりたい相手のことをいろいろと調べますよね?(事前かFace to Faceか問わず)。それと一緒です。ソーシャルマーケティングの場合は、ツールさえ使えば、複数の仲良くしたい相手の気持を一気に調べることができます。これは関係性づくりにおいて、絶対にやらなきゃいけません。(あ、ちょっとブームリサーチの営業になっちゃったw)。
ソーシャルメディアマーケティングコミュニケーションはヒューマンコミュニケーション。Twitterがなぜここまで流行りつつあるのかは、今までの情報発信法のどれよりも、発信者の顔やキャラクターが見えることによる共感性が高いからなんだと思います。もちろん、クイックレスポンスもありますけど。せっかく芽生えつつある、E2Cコミュニケーションが、最近、図のように徐々に縦軸(上)にシフトしつつある気がします。このまま行くと、たぶん、ブログマーケティングと同じ道を辿るでしょう。ぜひ今のポジションか、やや下に位置する中長期的な関係性づくりのコミュニケーションツールとして根付いて欲しいと個人的には思っています。
うーん、ちょっとブログエントリーとしては長すぎたかな(たぶん最長記録)。雑誌とかに寄稿すれば良かったかも。まあ、文中に「気がする」とか「個人的に」とか、かなりゆるく書いてますから、ブログってことでお許しを。
そろそろ京都だ。ということで、(行き先は大阪ですが)この続きはまたいずれ。
※ちなみに、文中の図は以前つくったものです。さすがに2時間弱でここまでまとめるのはムリです(笑)。
<関連エントリー>
●CGMマーケティングの本質:1年前くらいに書いたエントリーです
●ad:tech Tokyo 「UGCによるブランドオーナーシップの変化」:CGMとUGCの違いについて触れています
●「バズ」と「バイラル」の違い
●「投資対効果」と「費用対効果」の違い:ROMIとROACの違いについてまとめています
●新しい社会のトリセツ「グランズウェル」:ソーシャルマーケティングを語るのに必読の一冊
●爆発するソーシャルメディア「Social Media Revolution」:ソーシャルメディアの成長性やポテンシャルについて約4分でまとめている話題の映像
<追記>
早速スケダチのアニキから「言葉の使い方が間違っとる!」とありがたいご指摘を頂きました・・・。メディアの3類型の自社メディアの英語表記を、「Internal Media」から「Owned Media」に変更致しました。感謝。
<追記:2009年10月14日>
「ソーシャルマーケティング」と「ソーシャルメディアマーケティング」の違いについて数名の方からお問い合わせ頂きました。個人的には、ソーシャルメディアを活用したマーケティングは、コトラーが定義した「ソーシャルマーケティング(企業の社会的責任(CSR)や環境対応、非営利団体や病院や自治体のマーケティング)」、つまり社会とのつながりを意識して行うマーケティング活動の流れを汲むと考えてもいいんじゃないかという意味もこめて、あえて「メディア」を入れず「ソーシャルマーケティング」と書きましたが、世の潮流は全て「ソーシャルメディアマーケティング(SMM)」という言葉に統一されてきているので、タイトルと本文を「ソーシャルメディアマーケティング」に変更・統一させて頂きました。









































あー、いっぱいブクマが増えちゃいます。画像も勉強に貰います。
メモメモφ(..)
多分、企業はすべての関わる人をステークホルダーにしなくちゃいけないんでしょう。
新規顧客と常連顧客を差別化するのも古いなぁと思っちゃいます。
どちからというと、「今このトピを読んでビビっと来た人、クリック!」的な。
企業HPも、「続きを読む」をつけたら面白いんですよね。
会社名:○○、所在地:○○、続きはこちら
19??年会社創立、200?年■■に社名変更、続きはこちら
みたいに、初めて読む人も、ずっと読む人も相手にする気持ちを忘れずに。もちろん、適度に更新も必要。
続きを読んだ人のターゲティングが結構楽にならないかなぁ。
投稿情報: みーP | 2009.08.25 20:28
いつも楽しく読ませていただいてます。なるほどーと思いながら。
今回のエントリで思い出したことがあるんです。
企業には製品開発に投資する費用がありますよね。
売る際の投資?としてマーケティング費用がある。
でも顧客との関係性を維持・発展させるための投資ってないように思うんです。
いや、もちろんB to Bなら接待費とか、B to CでもDMが来たりするので最低限はあるんでしょうけど、通常SPの費用として取ってあると思うんですよね。接待費だったら余計に税金がかかってきたり。
ブランドについてちゃんと考えている企業はその辺ちゃんとしてるのかもしれないですけど、経営に関わる数字として「顧客関係開発費」とかって名前を付けちゃえばいいんじゃないかと。
強いものづくり企業が不景気でも開発費を減らさないように、それぐらい顧客との関係性開発って大事なんだぞ、と。広告とか宣伝の“費用”となるとすぐに削られるので(涙)、これは「関係性への投資だ」と言えると、企業も本気になりやすいんじゃないかなーなんて。
こんな話、大昔からされてるんでしょうか。
投稿情報: いk | 2009.08.25 23:41
>みーPさん
うーん。個人的には刹那的なクリック至上主義とは逆方向に行った方が良いと考えているクチです。男女関係で言うと、いつもドキドキハラハラさせてくれる相手は、いつもオドロキがあってそれはそれで面白いんですけど、なんか落ち着かない、みたいな(笑)。もっと信頼関係とか、それこそ企業と生活者なり消費者なり顧客なりとの間の「きずな」を高める恒常的活動を志向したいと思ってます。
>いkさん
斬新なペンネームですね(笑)。「顧客関係開発費」って面白い概念ですねえ。イタダキ!(笑)。続き版のネタにさせて頂きます。メーカーであればR&D(Research & Development)として数十億とか数百億とか使ってます。基礎研究か応用研究か、力点は企業によっても異なりますが、これをSocial Engagementに置き換えるって確かに面白いかも。KPIもROSEI(Return On Social Engagement Investment)とか。あーちょっと考えよっと。あざっす!
投稿情報: イケダノリユキ | 2009.08.26 01:55
あ、刹那的クリック至上主義はたしかに。
でも、私の場合、今のWebベースのコンテンツはすべてそこへ収束していくんじゃないかと考えています。
それとは別にモバイルとか、地デジとか、もっと手軽な端末上にそういった、きずなを埋める技術が進んで行くんじゃないかと。
テレビの視聴って、購入層とインチ数から、家庭内でどこに置かれているかが予測つくじゃないですか。で、そのテレビの視聴状況が把握できれば、もっと包括的な情報サービスも可能なんじゃないかって。
モバイルなんて、その典型なんじゃないかと。
で、ソーシャルメディア=モバイルの未来と考えています。技術や端末デザインとかは置いといて。
投稿情報: みーP | 2009.08.26 10:56